【2026年】
障害者法定雇用率2.7%と企業のDEI疲れ
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2026年7月1日。
日本の民間企業の障害者法定雇用率が2.5%から2.7%へと引き上げられました。
レバレジーズ株式会社が運営する障がい者就労支援サービス「ワークリア」が発表した実態調査では、衝撃的な数字が並びました。従業員1000人以上の大企業では、障害者雇用に関わる担当者の 実に72.4%が「DEI疲れ(Diversity Equity Inclusion;多様性・公平性・包括性)」を感じていると回答しました。
- 法律は前へ進む
- 当事者は働きたい
- 企業は疲れている
この3者の温度差こそが、いま日本の障害者雇用が直面するリアルな断層です。
そこで本記事では、障害者法定雇用率2.7%と企業のDEI疲れを
- 法律
- 障害者
- 企業
の3方向から読み解いていきます。
【法律の視点】2026年7月改正の本当の意味
2.7%は通過点にすぎない
2026年7月、障害者法定雇用率2.7%への引き上げは、2023年に厚生労働省の労働政策審議会障害者雇用分科会が了承した段階的引き上げの結果です。
| 時期 | 民間企業の法定雇用率 | 対象企業(常時従業員) |
| 2021年3月〜 | 2.3% | 43.5人以上 |
| 2024年4月〜 | 2.5% | 40.0人以上 |
| 2026年7月〜 | 2.7% | 37.5人以上 |
注目すべきは雇用率のだけではなく、対象になる企業が「37.5人以上」まで広がったことです。従業員40人ぎりぎりで「うちは関係ない」と思っていた中小企業が突如として法的義務の当事者となりました。
さらに、
- 国・地方公共団体は現行2.8%から3.0%へ
- 都道府県等の教育委員会は2.9%から3.2%へ
と公的セクターは民間よりも重い数字を課せられます。
「まず官が範を示す」という原則が、そのまま数字に表れています。
「除外率」という静かな改革
見落とされがちな重要ポイントが除外率制度の縮小です。障害者の就業が難しいとされる業種(建設業、鉄道業、医療業など)には、雇用労働者数を計算する際に一定割合を控除できる「除外率」が設定されていました。
2025年4月からは、この除外率が業種ごとに一律10ポイント引き下げられました。建設業なら20%→10%へ。「うちは業界的に無理」という言い訳が、法的にも社会的にも通用しにくくなっているのです。
未達成企業を待つ「二段構えの制裁」
法定雇用率を達成できない企業には、2つの現実的なペナルティが待っています。
障害者雇用納付金(100人超の事業主)
不足人数1人で月額5万円(年間60万円)、10人不足すれば年間600万円の追加コストです。
これは罰金ではなく、達成企業への調整金・報奨金の原資に回されるという「連帯税」の性格を持ちます。
企業名の公表
納付金を払っていれば済むという話でもありません。実雇用率が特に低く、行政指導にも改善が見られない企業は、厚生労働大臣により社名を公表されます。上場企業にとっては、ESG評価・株価・採用力すべてに直結するリスクです。
法律の思想は「福祉」から「戦力化」へ
障害者雇用促進法は、「福祉政策」の顔を持っていました。しかし現行法の思想は、もはや 「働ける人が働ける社会をつくる」というインクルーシブ経済政策に軸足を移しています。
障害者法定雇用率2.7%という数字には、少子高齢化で労働力人口が減る日本において、障害のある人材を「配慮すべき対象」ではなく「戦力」として位置付け直そうとする国家的意思があります。
【障害者の視点】「雇われた」先の現実
数字は増えたが続かない。
法定雇用率が上がるということは、単純計算でその分だけ「雇われる障害者」が増えるということですが、当事者の視点に立つと単純な話ではありません。
独立行政法人JEEDの調査によれば、就職後1年時点の職場定着率は、
- 身体障害者で約60%
- 知的障害者で約68%
- 精神障害者では約49%
で、精神障害を持つ就労者の半数以上が1年以内に職場を去っているのです。
離職理由の上位を占めるのは、「賃金」でも「業務内容」でもなく、当事者調査の上位は、
- 人間関係の悩み(約68.6%)
- 体調・メンタル不調(約60.8%)
で、「雇う」ことと「定着させる」ことの間には、法定雇用率という数字だけでは決して埋まらない溝があるということです。
「配慮」と「特別扱い」の紙一重
2024年4月には改正障害者差別解消法が施行され、民間企業にも合理的配慮の提供が法的義務になりました。しかし、「配慮」の名のもとに単純作業だけを切り出し、成長機会もキャリアパスも与えない運用が、当事者の尊厳を静かに削っていくケースも少なくありません。
精神障害・発達障害という「見えにくさ」
近年、障害者雇用の中で急速に比率を高めているのが精神障害者・発達障害者です。2018年から精神障害者が法定雇用率の算定対象に加わったこと、社会的に発達障害への理解が広がったことが背景にあります。
身体障害と違って「見えにくい」障害は、企業側の理解が追いつかない領域でもあります。
- 「昨日までできていたことが、今日はできない」
- 「静かに見えるが、内側では強い不安が渦巻いている」
こうした波と企業の生産性ロジックが正面衝突します。
就労継続支援B型という「もうひとつの働き方」
一般就労だけが障害者の「働く」ではありません。
就労継続支援B型事業所では、雇用契約を結ばず、体調に合わせた柔軟な働き方の中で工賃を得ながらスキルを磨くことができます。
- グラフィックデザインを学びながらブログを書く
- 動画編集を覚える
- Webサイトを制作する
B型は「福祉的就労」でありながら、「創造的な就労」へと進化しています。
障害者法定雇用率2.7%の議論の外側にも、多様に「働く」が広がっている。この視点を持たなければ、障害者雇用の議論は片手落ちになります。

【企業の視点】「DEI疲れ」という名の悲鳴
数字で見る「疲弊」のリアル
従業員37.5人以上の企業で障害者雇用実務に関わる担当者555名を対象に行われた調査では、企業規模別に「DEI疲れ」を実感する担当者の割合を明らかにしました。
| 企業規模 | 「DEI疲れ」を感じる担当者の割合 |
| 従業員1000人以上(大企業) | 72.4% |
| 300〜999人 | 約66%前後 |
| 100〜299人 | 約58%前後 |
| 99人以下 | 48.7% |
規模が大きいほど、疲弊が深い逆説的な結果は何を意味するのでしょうか。
障害者法定雇用率2.7%を「既に達成している」と回答した企業は僅か28.3%。
約6割の企業が「達成困難」と回答するという厳しい実態も明らかになっています。
なぜ大企業ほど「疲れる」のか
リソースが豊富な大企業の方が対応しやすいはずですが、大企業の担当者ほど疲弊しているのはなぜでしょうか。
「数」を作ることのプレッシャー
1000人規模の企業なら、2.7%で27人以上の障害者雇用が必要です。
しかも毎年、退職者が出れば補充が必要。
「絶対に達成しなければならない」というトップからの号令が、担当者を追い込みます。
「特例子会社」に頼る運用の限界
多くの大企業は、障害者雇用の受け皿として特例子会社を活用してきました。
しかし採用可能な人材プールは有限で、大企業同士の争奪戦は年々激化。
「採るための採用」が担当者を消耗させます。
米国発「反DEI」の逆風
2025年以降、米国ではトランプ政権二期目のもとで反DEIの動きが加速。
- マクドナルド
- メタ
- ウォルマート
など大手が相次いでDEI関連プログラムを縮小・廃止しました。
日本の大企業、米国事業を持つグローバル企業では、「本国はDEIを縮小しているのに、なぜ日本だけ推進するのか」という社内の温度差が、担当者を板挟みにしています。
「DEI疲れ」は思想の疲れではない
日本企業の「DEI疲れ」は、「多様性なんてもう嫌だ」という思想的な反発ではありません。
- 「目標達成のための施策が、単発の打ち上げ花火で終わる」
- 「現場マネージャーの理解が得られず、板挟みになる」
- 「採用しても定着せず、採用活動が振り出しに戻る」
- 「経営層はKPIしか見ない。当事者の顔が見えない」
疲れているのは「DEIそのもの」ではなく、「戦略なきDEI推進運用」に対する現場の悲鳴です。ここを取り違えると、「じゃあDEIをやめよう」という短絡的な結論に走りかねません。
先を行く企業がある
実雇用率3%を大きく超える企業も存在します。ある大手食品メーカーは、2026年6月時点で障害者雇用率3.16%を達成し、法定を大きく上回りました。
- 障害者雇用を「人事部の仕事」ではなく、「経営マター」に位置付けている
- 業務の切り出しではなく、業務の再設計で受け入れ体制を作っている
- 定着支援に外部支援機関(就労移行支援・ジョブコーチ)を積極活用
- 「合理的配慮」ではなく「戦力化のための投資」と語る文化がある
数字を追う企業は疲れ、意味を追う企業は伸びる。
この差は、これから数年で決定的なものになるでしょう。
分岐点に立つ日本の未来
法・障害者・企業の「翻訳者」が足りない。
この3つの視点は、それぞれ別の言語で語られています。
- 法律は「率」
- 障害者は「関係」
- 企業は「運用」
3者の言葉を翻訳し、橋渡しする役割が日本社会に決定的に不足しています。
- 支援機関
- ジョブコーチ
- 就労継続支援事業所
- 障害者自身が発信するメディア
「翻訳者」の層が厚くなればなるほど、「DEI疲れ」は「DEIの果実」へと転化していきます。
中小企業の時代がやってくる
対象企業が37.5人以上に拡大したことで、「無関係」だった中小企業が当事者になりました。
しかし、これは悲観すべき事態ではありません。大企業型の「特例子会社モデル」ではなく、中小企業ならではの「顔が見える雇用」 が次の主役になる可能性を秘めています。
社員一人ひとりの顔が見える中小企業では、合理的配慮は制度ではなく「あたりまえの気遣い」として実装されます。数字は小さくても、定着率と満足度で大企業を上回る事例が確実に増えつつあります。
「疲れ」を認めるところから始まる
「DEI疲れ」という言葉は、「疲れている」と担当者が言えるようになったことこそが、この10年の障害者雇用の最大の進歩かもしれないのです。
「多様性は素晴らしい」という表向きの美辞麗句の下で、現場の疲弊は語られませんでした。72.4%という数字は、隠されていた本音がついに可視化された象徴です。
疲れを認め、疲れの原因を分解し、疲れない仕組みへ再設計する。この地道な作業の先にしか障害者雇用の未来はありません。
障害者法定雇用率2.7%をどう受け止めるか
障害者法定雇用率が2.5%から2.7%の引き上げが、多層的な問いを社会に投げかけています。
- 法律は前へ進みます。
- 当事者は働きたいと願っています。
- 企業は正直に「疲れた」と言い始めました。
この3者の声が交わる場所にこそ、次の障害者雇用のかたちが立ち上がってくるはずです。
この記事を書いている私自身が20年間の機械エンジニアを経て「うつ病」を患い、就労継続支援B型事業所でグラフィックデザインを学びながらブログを書いている一人の当事者として思うこと。
障害者法定雇用率2.7%はゴールではない。
社会が私たちに用意した新しいスタートラインです。
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