【就労支援事業】
不正行為の実態と信頼できる事業所選び
私が就労継続支援B型事業所「でじるみ愛知扶桑」に通所して1年が過ぎました。20年間の機械エンジニア人生を経て、うつ病で退職し、引きこもり状態となっていた私が、こうして再びキーボードを叩き、グラフィックデザインを学び、ブログを書けているのは、間違いなく「良質な事業所」に出会えたおかげです。
しかし、当事者としてこの業界を1年見つめてきて、ハッキリ言えることがあります。「就労支援」という看板を掲げていれば、どの事業所も同じように利用者に寄り添ってくれると思ったら大間違いだということです。
2026年8月現在、絆ホールディングス事件をはじめ、業界を揺るがす不正が次々と明るみに出ています。倒産件数も過去15年で最多を更新。制度の隙間を突いた悪質事業者と真摯に支援する事業所が入り混じるカオスな状況で、私たち利用者はどう身を守り、どう「本物」を見分ければいいのでしょうか。
そこで本記事では、最新の不正事例と数字、私自身が「でじるみ」で体感している「良い事業所の共通点」を当事者目線で解説します。

就労支援事業を揺るがす「不正の連鎖」
【絆ホールディングス事件】史上最大の150億円不正
2026年3月、大阪市は福祉関連会社「絆ホールディングス(絆HD)」傘下の4事業所に対し、指定取消処分を下し、加算金を含めて約110億円の返還を請求しました。全国75自治体分を合算した不正総額は約150億円にのぼり、障害福祉サービス制度史上、類を見ない規模の事件になっています。
その後、会社更生法の申請に追い込まれ、傘下事業所の閉鎖によって多くの利用者が突然「行き場」を失う事態となりました。
2017年に発覚した「あじさいの輪事件(約1.37億円)」の実に約100倍のスケール。制度の脆さと悪用のしやすさを物語る事例はありません。
【36か月プロジェクト】加算金の循環詐取スキーム
絆HD事件で使われた手口は、業界関係者の間で「36か月プロジェクト」と呼ばれています。
- A型事業所の利用者をグループ内企業に「一般就労」として再雇用する
- 6か月経過した時点で「就労定着者」としてカウントし、就労移行支援体制加算を算定
- その後、A型利用者に戻す
- 別のグループ企業へ再び「一般就労」として送り出し、再度加算を算定
このサイクルを繰り返すことで、同じ人を「就労実績」として何度も金に換えるわけです。障害を持つ人が「加算金を発生させる記帳単位」として扱われる。福祉労働の商品化の最も醜い形と言えます。
倒産件数が過去15年で最多を更新
不正の摘発強化と並行して業界の淘汰も進んでいます。
東京商工リサーチの発表によれば、2026年上半期(1〜6月)の障害福祉サービス事業者の倒産は33件(前年同期比26.9%増)で、2012年以降の15年間で最多を記録しました。
これは3年連続の増加。倒産理由には、不正受給による指定取消だけでなく、報酬改定への対応困難、社会保険適用拡大による人件費上昇なども挙げられています。
【A型事業所の大量閉鎖】5000人が解雇された「2024年ショック」
2024年3月から9月の5か月間で全国329か所のA型事業所が閉鎖し、約5000人(正確には4884人、うち4279人がA型利用者)が解雇された事実です。
厚生労働省の集計では、2024年度の障害者解雇者総数は過去最多の9312人。約8割がA型事業所の利用者という異常事態でした。
背景には、2024年4月の障害福祉報酬改定で「利用者に支払う賃金が低いと基本報酬も低くなる」仕組みに見直されたことがあります。まっとうな事業運営ができない事業所が、一気に市場から退出させられた。見方を変えれば、そういう荒治療でもあったわけです。
【なぜ不正はなくならないのか】構造的な3つの問題
成果指標の「金銭化」が偽装を合理化する
就労移行支援体制加算のように「一般就労への移行実績」が金銭化されると、実績を作ったように見せかけるだけで儲かる構造が生まれます。倫理よりも経済合理性が勝ってしまう。これが制度設計の根本的な欠陥です。
指定基準審査の形骸化と自治体の縦割り
指定権者(都道府県・政令市など)によって審査基準にバラつきがあり、書類上は問題なくても実地では違反というケースが多発しています。絆HDのように複数自治体にまたがって展開する事業者の不正パターンを横断的に検出する仕組みが弱いのも大問題です。
営利法人参入と「福祉のビジネス化」
株式会社の参入が加速する中、利用者を「加算金を生む単位」として扱う事業所が増えています。もちろん営利法人がすべて悪ではなく、真摯な運営をしている会社も多いのですが、「福祉=儲かるビジネス」という発想で参入してきた事業者の中に悪質なものが混ざっているのが現状です。
2026年の制度はどう変わるのか
2025年10月から本格スタートした就労選択支援
2025年10月から始まった新サービス「就労選択支援」は、利用者が自分に合った働き方を選ぶための「羅針盤」になる制度です。
- B型新規利用者:2025年10月から原則利用が必須
- A型新規利用者:2027年4月から原則利用が必須
支援期間は原則1か月(必要に応じて2か月)。この間に本人との面談、作業体験、多機関連携などを通じて「本当にB型でいいのか、A型か、一般就労か」を客観的にアセスメントします。
事業所側が利用者を囲い込む余地を減らす仕組みでもあります。悪質事業所にとっては痛手、良質な事業所にとっては追い風となる制度です。
【2026年度報酬改定】監査強化と処遇改善
2026年度障害福祉報酬改定では、「指導監査の強化」と「処遇改善加算の見直し」が2本柱です。新規事業所への基本報酬引き下げも含まれており、参入ハードルの引き上げが図られています。
B型の平均工賃
厚生労働省の発表では、令和5年度のB型平均工賃月額は22649円で、過去最高を更新し続けています。2025年12月の基本報酬改定議論では、「平均工賃月額が全国平均で約6000円上昇する」との試算も出されています。
数字だけ見ると好転しているようですが、「工賃が高い=良い事業所」とは限らないことも注意が必要です。
【当事者体験談】「でじるみ」で感じた良い事業所の空気感
私が「でじるみ愛知扶桑」に面談に行った日、正直言って半信半疑でした。20年間モノづくりの現場で働いてきた自分が、うつ病で会社を追われ、社会から切り離された感覚。「福祉」という言葉に、どこか不安すら感じていたのを覚えています。
でも、初回の見学で事業主がかけてくれた言葉は、こうでした。
「吉満さん、ここで何ができるようになりたいですか?」
「何をしてもらえるか」ではなく「何ができるようになりたいか」。この違いに、私は救われた気がしたんです。利用者を「支援される客」ではなく「学び成長する主体」として扱ってくれる。これが、良い事業所を見分ける最初の直感でした。
その後、私はIllustratorとClip Studio Paintを学び、グラフィックデザインの基礎を身につけ、ブログ運営を通じてWebメディアの実務も経験しています。「加算金を生む記帳単位」ではなく、ひとりのクリエイター見習いとして扱ってくれる場所がある。このリアルを多くの方に知ってほしいです。
信頼できる事業所を見分ける5つの実践チェックポイント

見学や体験時に、下記の5点をぜひ確認してください。
「個別支援計画」は具体的でオーダーメイドか
信頼できる事業所は、面談で徹底的にあなたの希望を聞きます。個別支援計画書がテンプレートの穴埋め程度だったら、その事業所は「あなた個人」を見ていません。3か月〜半年ごとの見直しが約束されているかも必ずチェックしてください。
工賃の計算根拠が明示されているか
工賃の金額そのものよりも「どういう作業に対して、いくら支払われるのか」の説明が明確かが本質です。「時給いくら」「出来高いくら」の基準が曖昧な事業所は要注意。
「やることがない時間」が常態化していないか
見学時に、利用者がぼーっとテレビを見ているだけ、ネットを漫然と見ているだけ。こういう光景が広がっていたら黄信号です。作業がないのに利用者が「通所」だけしている状態は、給付費だけを目的にしている可能性があります。
スタッフの言葉遣いと「距離感」
大人に対して子ども扱いした言葉遣いをしていないか、逆に高圧的で命令口調になっていないか。利用者を「働くパートナー」として対等に扱う空気は、10分見学すれば必ず伝わります。
情報公開と「悪い話」も語れるか
「事業所の弱みは何ですか?」と聞いてみて、真摯に答えてくれる事業所は信頼できます。良いことしか言わない事業所ほど隠したいことがあるのは福祉に限らず、どの業界でも通じる真理です。

【比較表】良い事業所 vs 避けるべき事業所
| 項目 | 良い事業所の特徴 | 避けるべき事業所の特徴 |
| 個別支援計画 | 本人の希望を反映し、具体策と見直しサイクルがある | テンプレ的で内容が画一的、説明も不十分 |
| 工賃・作業 | 支払い基準が明確で、作業内容が充実 | 基準が不明瞭で、待機時間が常態化 |
| スタッフ対応 | 丁寧な言葉遣いで、自立と挑戦を尊重 | 高圧的、または過度に子ども扱いする |
| 環境・雰囲気 | 清潔感があり、利用者に活気がある | 掃除が行き届かず、覇気がない |
| 情報公開 | 運営状況や弱みも正直に話す | 良いことばかり言い、実績が不明瞭 |
| 就労選択支援連携 | 外部アセスメントを歓迎する姿勢 | 「うちだけで大丈夫」と囲い込む |
もし「不正かも?」と感じたら
違和感を感じたとき、ひとりで抱え込まないでください。相談窓口は複数あります。
- 市区町村の障害福祉窓口:指定権者への通報窓口として機能します
- 相談支援専門員:独立した第三者としてあなたの権利を守ってくれます。事業所と癒着していない相談員を選ぶことが重要
- 都道府県の障害福祉主管課:指定取消の権限を持つ機関
- 各地の障害者権利擁護センター:法的アドバイスも受けられます
相談支援専門員は、「事業所と同じ法人系列でない独立した相談事業所」を選ぶのが鉄則。
利害関係のない第三者の目があなたの味方になります。
まとめ
就労支援事業における不正は、150億円という規模で姿を現しました。同時に報酬改定と就労選択支援制度によって、業界は大きな地殻変動の真っ只中にあります。
多くの事業所は、真摯に障害者の就労と自立を支援しています。「でじるみ愛知扶桑」で私が体験しているように良質な事業所は確実に存在します。
大切なのは、私たち利用者自身が「選ぶ目」を持つこと。これは自分の権利を守る行為であると同時に、悪質事業者を市場から退出させ、業界全体を健全化していく力にもなります。
うつ病で会社を辞めた40代のオッサンが、こうしてブログを書き、デザインを学び、社会と再びつながれている。この現実は、良い事業所とそれを見抜く目があれば、誰にでも起こり得る奇跡だと思っています。
あなたやあなたの大切な人の「働きたい」という気持ちを安売りしないでください。自治体の障害福祉窓口や相談支援専門員に相談し、見学や体験は複数回、質問は遠慮なく、直感を信じていい。 1年通所した当事者からのアドバイスです。
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