【if】~もう少しだけアイツと一緒にいられたら~ 第6話
午前10時過ぎに市内の中央図書館に着き、ふたりきりでの勉強が始まる。
「緒川は何から始めるん?」
「何でもええよ。」
まずは数学から始めることになった。
教科書と問題集を開き、1問ずつ解いていく。
問題を解いては、お互い答え合わせをしていく。
そのたびに、アイツと会話ができるのが嬉しかった。
アイツは男子からの人気があり、学校内で気安く話しかけることができない。
それだけに、アイツと遠慮なく会話できるのはありがたい。
それにしても、なぜ、アイツは俺を勉強に誘ってくれたのだろう?
そんなことを思いながら、数学の問題を一通り解き終えた。
次は、俺の苦手な英語だ。
字がきれいではない俺は、中学生になって習った筆記体も苦手だ。
アイツは、横目で私を見ながら、
「緒川、下手くそじゃね。こう書くんよ。」
「ん?読めるけぇ、ええじゃろ?」
「なんよ?素直に聞きなよぉ。」
習字を習っていたアイツは、字がきれいで、筆記体も上手だった。
それに英語が得意なアイツ。
アイツは、塾に行っている様子もなく、英語を習っているとも聞いたことはなかった。
「友野って、塾とか行っとるん?」
「行っとらんよ。部活で忙しいじゃろ。」
「そっか。俺は進研ゼミやらされとるよ。」
「うちも進研ゼミやっとるよ。」
アイツとの新たな共通点の発見に、密かに喜んでいるところで正午になった。
「腹減らん?なんか食べに行こ。」
「えぇよ。マックでええじゃろ?」
図書館を出て、マクドナルドに向かうアイツと俺。
アイツと一緒に食事をするのは、小学校の給食のとき以来だ。
中学に入学してからは、出席番号の離れたアイツとは別グループで給食を食べている。
今日はふたりきりでの食事で、これは初めてのことだった。
それを思うと、急に緊張してきた俺。
アイツには、そんな素振りは全くない。
テリヤキバーガーにポテト、アイスティを頼み、店内で食べ始めた。
「うちも、テリヤキ好きなんよ。」
「俺はいつもテリヤキじゃよ。」
こんな会話をしながら、アイツとの食事を楽しんだ。
「家で勉強しとるん?」
「あんましとらんよ。」
「ゲームばっかりやっとるんじゃろ?」
「ゲームやっとるか、走っとるかのどっちかじゃよ。」
「部活で走っとるのに、帰ってからも走っとるんじゃね。」
「俺より速い奴おるじゃろ。負けとれんけぇ。」
「どこ走っとるん?うちも走ろっかな。」
「家の近くで走っとるんよ。登り坂が多いけぇ、良い練習になるんよ。」
食事を終えて、図書館に戻るアイツと俺。
お腹が満たされて、眠気に襲われながら、まったりと会話を楽しんだ。
「さぁ、勉強、勉強。」
「そうじゃね。次はなんじゃろぅ?」
「うち、地理苦手なんよ。緒川、得意じゃろ?」
「歴史の方が得意なんじゃけど、地理もまぁまぁ得意じゃよ。」
俺は、棚から世界地図の図鑑を持ってきて、
「地図を見ながら、特産物とかを当てはめれば覚えやすいんよぉ。」
「そうじゃね。全部暗記するの大変じゃもんね。」
1冊の図鑑をふたりで見ながら、一緒に勉強する時間は楽しかった。
楽しい時間は過ぎるのが早い。
あっという間に夕方になり、帰ることになった。
図鑑を棚に戻し、教科書やノート、筆記用部をショルダーバッグに入れ、図書館を出た。
「一緒に勉強して良かったじゃろ?」
「おぅ、こういうときじゃないと勉強せんけぇ。」
休日をふたりで過ごせて嬉しい気持ちを押し隠しながら、答える俺。
自転車に乗り、国道2号線沿いの道を通って、アイツのアパートに向かう帰り道。
夜のテレビ番組の話や学校生活の話で、アイツとの会話は途切れなかった。
アイツのアパートまで着くと、
「じゃぁ明日学校でね。遅刻すんなよ。」
「おぅ、友野も間違えて朝練行くなよ。」
アイツを見送った後、自宅に戻る俺。
仲の良い友達のような会話をしながらも、俺はアイツに恋心を抱いている。
アイツにはそんな様子は全くない。
きっと、その気はないだろうけど。
それでも良いかなと思ってしまうほど、今日は嬉しかった。
テスト期間中で部活動のないアイツと俺は距離が空いてしまうのか?
それとも?
どんな展開になるのやら。
それは次回で。
第7話
閲覧ありがとうございました。
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