三国志 第二話③ 督郵
劉備が安喜県に赴任して政務をとり始めてからというもの、民は安心して暮らしを送ることができるようになり、民たちは劉備をとても慕っていた。
今日も村を巡回する劉備たちに、
「これはこれは劉備様。毎日のお勤め、誠にお疲れ様でございますだぁ。」
「変わりはないかな?」
「へぇ、劉備様のおかげで、平穏無事に暮らせますだぁ。」
「それは、良かった。何かあればいつでも申すが良いぞ。」
県に着任して4ヶ月が経った頃、朝廷は軍功のあった地方官を審査するとの詔を出し、不適格な者を罷免するとのお達しであった。
黄巾の乱で功を上げた劉備も対象になってなっており、安喜県にも審査するため、督郵が派遣されてきた。
劉備は城外に出て、督郵を出迎え、鄭重にもてなしたが、督郵は馬から下りようともせず、劉備を見下ろすだけだった。
それを見た関羽と張飛は、督郵の無礼な態度に腹を立てたが、劉備が目配せをしてため、二人は唇を嚙んで我慢した。
劉備が督郵を宿舎に案内すると、督郵は上座に座り、庭に立っていた劉備は言葉を待った。
しばらくして督郵は、
「その方は、どんな功で現職に就かれたのかな。」
と聞くと、劉備は答える。
「小官は、中山靖王の末孫で涿県から黄巾賊討伐に起ち、大小三十の合戦に加わり、多少の軍功あって県尉に任じられたものにございます。」
これを聞いた督郵は、
「ありもせむ功を申し立てるばかりか、皇族を詐称するとは何事か!朝廷が詔を出されたのは、その方どものような者たちを審査して、処罰せよとのことじゃ。」
劉備は、ひたすら恐縮して引き下がり、役所に戻ることにした。
役所に戻り、県吏にこのことを伝えると、
「督郵は賄賂を求めているのでございます。」
「なんと!この玄徳、民から何ひとつ盗ったこともない!賄賂なんぞ出すものはない!」
翌日、督郵は県の役人を集め、劉備が民を苦しているとの弾劾状を無理矢理書かせようとした。
劉備は、無罪放免を訴えようと何度も出向いたが、門番に阻まれて目通りを許されなかった。
この状況に我慢できない張飛。
やけ酒を何杯も呑んだ後、馬に乗って督郵のいる宿舎の前を通りかかった。
すると、門前には民たちが五・六十人集まっていて、騒ぎになっている。
張飛がわけを聞くと、
「督郵が県のお役人様を脅して、劉備様にありもしない罪を着せようとしているのです。おいらたちが許しを請おうとしているのですが、宿舎の中に入れてもらえず、門番に殴り散らされているのです。」
これを聞いた張飛は怒り、丸い眼を張り裂けんばかりに剝き出しにして馬から下りて、宿舎に飛び込もうとするところに立ち塞がる門番を跳ね飛ばして、宿舎奥に飛び込んだ。
そこには、縄に縛られ、地面に座らされている下役人を攻め立てる督郵の姿があった。
「おい、民を食い物にする下衆野郎!」
張飛は一喝すると、督郵の髪の毛を掴んで、宿舎外へ引きずり出して、馬つなぎの柱に督郵を縄で縛り付けた。
そして、近くの柳の木の枝を折り、督郵を力任せに打ち続け、騒ぎとなった。
役所にいた劉備が騒ぎに気付き、県吏の者に尋ねると、
「翼徳殿が暴れているのでございます。」
「なんと翼徳が!」
劉備は張飛のもとに急いで行くと、督郵が打ち据えられている。
「翼徳!これは一体どういうことなのだ!」
「こんな不届きなものは、叩き殺してやらねば気が納まらん!」
督郵は悲鳴を上げながら、
「劉備殿、命ばかりはお助けを!」
劉備は張飛をなだめて、督郵を打ち据えるのを止めさせた。
騒ぎを聞きつけた関羽が駆け付け、張飛を察しながら言う。
「玄徳兄者は、数々の軍功を立てながら、一介の県尉という扱い。そのうえ、このような督郵ごときに恥をかかされる始末。それがしが思うに、いばらの中は鳳凰の棲むところではない。ここはいっそのこと、こんな督郵は斬り捨て、官を辞して一旦故郷に帰り、出直してはいかがでしょうか。」
劉備は官印を手に取り、督郵の首にかけながら、
「おまえのようなものを生かして置けぬところではあるが、殺す価値もない
ここはひとまず命だけは助けてやる。わしは官印を返上して、ここは立ち退くことにする!」
いつも穏やかな劉備であるが仁義に熱い漢であり、怒りを内に秘めながら、ほとばしっている。
こんな劉備を始めてみた関羽と張飛は何も言わず、劉備に従い、安喜県をあとにした。
劉備が安喜県を去った後、督郵はこのことを朝廷に報告し、追っ手を差し向けさせた。
官を辞した劉備ら三人は、代州に向かい、劉恢のもとに身を寄せることになった。
劉恢は劉備たちを快く迎い入れ、家に匿うことにした。
黄巾の乱が鎮圧されてもなお、乱れたままの漢王朝。
これから漢王朝と劉備たちはどうなるのか?
それは次回で。
第二話④
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