三国志 第二話⑥ 陰謀と権力争い
「精鋭五千をお貸し頂ければ、禁裡に斬り込んで新君を冊立し、宦官を誅滅して朝廷を清め、
天下を安んずることでありましょう。」
司徒の袁逢の子で、袁隗の甥、司隷校尉を務める袁紹、字を本初である。
何進は喜んで近衛軍五千を動員し、何顒と荀攸と鄭泰ら重臣三十人を引き連れ、宮中に入った。
霊帝の棺の前で、太子辯を擁立して皇帝に即位させた。
さて、何進を亡き者にしようとした蹇碩を捕えるため、袁紹は禁裡に踏み込んだ。
慌てふためいた蹇碩は御園に逃げ込んだが、中常侍の郭勝に殺された。
そして、蹇碩の指揮下にあった親衛軍はすべて降参した。
袁紹は何進に進言した。
「宦官共はみな徒党を組んでおります。これを機に皆殺しにしておくべきかと存じます。」
この動きに張譲らは気付き、何皇后にもとに訴え出た。
「何進大将軍を陥れようとしたのは、蹇碩の独断によるもので、我らは何も存じませぬ。
袁紹の進言で、宦官を皆殺しにしようとしておりますので、何卒お救い下さい。」
張譲らの訴えを聞いた何皇后は、何進を召して言った。
「我らはもともと卑賎の生まれ。今こうしていられるのも張譲らのおかげです。蹇碩を誅した
というのに、どこの誰にそそのかされているのです。」
何皇后の話を聞いた何進は、家臣一同に向かって、
「蹇碩ら一族を誅滅したからには、そのほかの者には危害を加えてはならぬ!」
これを聞いた袁紹は、
「そのようなことでは、のちのちの禍いとなりますぞ!」
と進言したが、家臣は聞き入れなかった。
後日、何皇后は何進に録尚書事を兼ねさせ、その他の者にも官職を与えた。
董太后は密かに張譲らを禁理に召して、
「何皇后はわたしが引き立ててやったのです。それがいま、我が子を皇帝にし、朝廷内外を同胞
で固めて、わがもの顔に振舞う始末。これをどうしたら良いでしょう。」
張譲は答える。
「董太后様がお出ましとなって陰で政務をとり、協皇子様を王に封ぜられませ。そして、董重様
を高位に就けて軍権を授けて、臣らを重用して頂ければ、万事御心のままになると存じます。」
董太后は朝廷にお出ましとなり、皇子協を陳留王に封じて、董重を驃騎将軍にし、張譲らを政務
に就かせた。
董太后が権勢をほしいままにしているのを見ていた何皇后は、宮中で宴を催し、董太后を招いた。
「そのむかし、呂后が権力を握ったために、一族千人ことごとく亡ぼされることになりました。
それ故、わたくしどもが自ら政務を預かるのは、お控えになった方が良いと存じます。」
これを聞いた董太后は大いに怒り、
「王美人を疎んで毒殺したうえに、我が子を帝位に即ける始末。そなたこそお控えなさい。」
董太后と何皇后の言い争いとなり、宴を終えることになった。
宴の後、何皇后は何進にこのことを告げた。
何進は朝廷に奏上し、董太后を河間国に送り出して監視し、驃騎将軍の董重の館を近衛兵に取り
囲ませて自刃させた。
張譲や段珪らは、金銀財宝をもって何進の弟の何苗と母親の舞陽君に取り入り、とりなしてもら
えるよう懇願した。
十常侍らは、ふたたび側近に用いられることになった。
何進は密かに董太后を毒殺し、文陵に葬った。
その後、何進は病気と称して朝見しなかったが、司隷校尉の袁紹が訪ねて来た。
「張譲や段珪らが外に噂を広め、殿を陥れようとしております。今のうちに宦官らを始末して
おかねば、大きな禍いとなるは必定。むかし竇武が宦官を誅せんとしてことがあらわになり、
かえって我が身を亡ぼした例もあります。躊躇される時ではございませぬ!」
ことが洩れて、張譲らは何苗に多額の贈物を届けて、何皇后にとりなしてもらった。
何進は、宦官を誅せんと奏上をしたが、何皇后に聞き入られなかった。
決断力に乏しい何進に向かって、袁紹は進言した。
「各地の諸将に呼びかけ、宦官どもを皆殺しにしましょう。」
すぐさま各地へ檄を飛ばそうとする何進に、主簿の陳琳が引き止める。
このやり取りを見た漢(おとこ)が、手を叩いて大声で笑う。
一同がみれば、それは曹操孟徳である。
さて、曹操は何を言い出すのか。
それは、次回で。
第三話①
Coming soon
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