三国志 第一話⑤ 桃園の誓い
黄巾賊がにわかに騒がしくなった頃、一人の青年が町に辿り着く。
「ふぅー。今日は売れると良いのだが・・・。」
年老いた母親と共に編んだむしろや草鞋を並べているときだった。
「高札が立てられたそうな。いったいなんて書かれてあるんだ?」
立てられた高札の前に人集りができていた。
気になったむしろ売りの青年が高札に近寄ると、
「あんた、字が読めるかね?これはなんて書いてあるんだい?」
青年は高札の前に立ち、読み始めた。
「漢王室の危機。黄巾賊討伐の義勇兵を募集する。」
青年は読み終えるなり深いため息を漏らした。
「はぁー。」
すると、一人の大男が人集りを押し退けて入ってきた。
「大の漢(おとこ)が国のために何もせず、溜息をつくとは何事か!」
青年が振り返ると、そこに豹のような丸い顔に大きな瞳、頬から顎に虎髭をたくわえた筋骨隆々の漢(おとこ)がどっしりと構えている。
「俺は張翼徳というものだ。この近くで商いをしている。それよりあんた、溜息ばかりついて、
いったいどうしたというのだ?」
青年は肩を落としながら答える。
「私は、漢王室の血をひく劉玄徳と申すもの。国の一大事に賊を討ちたいという志がありながら
私にはその力がなく、情けなく思い、ため息を漏らしたのです。」
情けない漢(おとこ)だと思ったが、劉備の威風堂々とした姿を張飛は見た。
「俺はこれから義勇兵に志願するつもりだが、あんたはどうする?」
張飛は続けて、
「俺には少しばかりの金の用意がある。早速この辺りの若いものを集めて一旗揚げようと思うが、あんたも来ないか?」
劉備は大いに喜び、張飛と近くの居酒屋に向かい、酒を酌み交わした。
そこへひとりの偉丈夫が店内に入ってきた。
「すまぬが酒を急いで持ってきてくれ。これから義勇軍に加わるのだ!」
この漢(おとこ)、張飛よりさらに大男で、ナツメのような真っ赤な顔。目は切れ長で鋭く、長い髭を垂らしている。
「只者ではない!」
そう思った劉備と張飛の二人は、この漢(おとこ)を自分たちの卓に迎えた。
「私は関雲長と申す。解良県から各地を渡り歩いてきたのだが、この涿県で義勇兵を募っている
と聞いてやってきたのだ!」
それを聞いた張飛は、
「我らもこれから一旗揚げようとしていたのだ。あんたも一緒にどうだ?」
関羽は二人と意気投合し、お互いの志を語り尽くした。
翌日、張飛の家に集まった三人は、桃園の中に祭壇を設けて兄弟の契りを結び、力を合わせて心をひとつにすることを誓った。
三人は声をひとつに、
「同日に生まれることは叶わぬとも、願わくば共に死なん!」
そう誓い終わると、集まった三百人の若者たちと酔い潰れるまで痛飲した。
義兄弟となった三人。
張飛は劉備に言う。
「あんたと会った時から想っていたんだが、これからは兄者と呼ばせてもらう。」
雲長も続けて、
「玄徳殿のお志の高さに感服した。私も同感だ。」
かくして、劉備が長兄、関羽が次兄、張飛が末弟となった。
旅立ちの日。
劉備には心残りがある。
それは年老いた母のことだ。
親孝行の劉備が悩ましく想っているところに、母が言う。
「母のことは心配しなくてもよろしい。私は一人でも生きていけます。」
「しかし、母上・・・。」
「玄徳!お国のために働いてきなさい!」
母親に背中を押された劉備は、こうして旅立つことを決心した。
三人が旅立とうとしたとき、張世平と蘇双という二人の豪商と出会った。
馬を売りに出たのだが、黄巾の賊のおかげで引き返してきたそうだ。
二人の豪商は劉備たちが賊を討ち、人民を救う志を持って一旗揚げようとしていることを知ると良馬や武器防具を買うための金銭を快く渡し、劉備たちを送り出した。
総勢五百の民兵を引き連れ、校尉の鄒靖のもとを訪れ、太守の劉焉に目通りを許された。
劉焉は大いに喜び、義勇軍に快く迎い入れた。
ここから劉備ら三英傑の戦いが始まる。
第一話⑥
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