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【小説】if ~もう少しだけアイツと一緒にいられたら~ 第8話

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【小説】if ~もう少しだけアイツと一緒にいられたら~ 第8話

 学校の図書館に初めて入った。
 決して大きくはないのだが、古い本がたくさん並んでいる。
 部活動のないテスト週間中の図書館で勉強している生徒は、ほとんどいない。
 奥に入っていくと、ひとりの教師が本を整理していた。


 

 その教師は、国語担当の佐藤悦子先生だった。
 私は馴れ馴れしくも、授業以外では「悦ちゃん」と呼んでいた。
 「緒川君。どうしたん?」
 「あ、悦ちゃんじゃぁ。三国志のマンガ、入ったん?」
 「横山光輝の三国志じゃね。でも、勉強せんでえぇの?」
 「三国志が好きなんよ。それに、部活始まると、読みに来れんけぇー。」
 「図書館に来てくれる生徒が少ないけぇね、嬉しいよ。」
 「三国志みつからんけど、どこに置いてあるん?」
 「新刊の棚にあるんよ。」
 棚から1巻を手に取り、テーブルにカバンを置いて読み始めた。 


 

 私が歴史を好きになったきっかけはというと、親父の影響だった。
 親父は歴史が好きで、難しそうな書籍を読んだり、NHKの大河ドラマを観ていた。
 そんな親父を見ながら、一緒に大河ドラマや年末年始の歴史時代劇を観て、好きになった。
 日本の歴史をマンガや文庫で読んでいて、歴史は一番の得意科目だった。
 三国志の小説を文庫で読んではいたものの、中国の地理に疎く、登場人物の多さに圧倒され、
 名作と言われた横山光輝の三国志が読みたいと思っているところだった。
 私が好きだったのは、蜀を建国した劉備玄徳。
 関羽、張飛と義兄弟の契りを結び、黄巾賊討伐の義勇軍として旗揚げする。
 その物語に没頭しながら、読み進めていく。
 全巻で60巻の大作である。
 夢中で読み進めて、1巻を読み終え、2巻を取りに席を離れた。

 

 テーブルに戻る途中、後ろから声を掛けられた。
 「おった、おった。図書館におったんじゃね。勉強?」
 あいつの声に振り返ると、
 「帰ったと思ったんじゃけど、下駄箱に靴があったけぇね。」
 「おぅ、三国志読みに来たんよ。」
 日直の登板だったあいつとは時間が合わず、あいつと一緒に帰るきっかけがなかった。
 きっとあいつは、友達と下校するものだと思って、ひとり図書館に向かった私。

 

 「まだ、帰らんの?」
 三国志を読み進めたい私は、
 「もう少し読んでから帰るけぇ」
 「緒川、勉強せないけんじゃろ?」
 あいつに三国志の2巻を取り上げられて、棚に片付けられた。
 「勉強するけぇーね!」
 あいつにそう言われて、しぶしぶ同じテーブルに着く。
 カバンをテーブルに置き、背負っていたナップサックを下ろそうとしているとき、あいつの胸の
 膨らみが目が入ってきた。
 小学校6年生の2学期頃から、胸が膨らみ始めたあいつ。
 中学生になったあいつの胸の膨らみは、以前よりも大きくなっていることに気付いた。
 見てはいけない。
 そう思えば思うほど、あいつの胸を見てしまう思春期の私。

 

 「緒川。今、うちの胸見たじゃろ!」
 ヤバい、バレてた。
 そう思いながら、
 「え、見とらんよ。そんなペチャパイ」

 「うわぁー、やっぱ見とったんじゃね。」
 私は、顔が熱くなるのが自分でも分かった。
 「わぁースケベ!チビのくせに。」
 「チビって言うな。そのうち追い越すけぇな。」

 

 中学に入って身長が少し伸びた私。
 でも、私以上にあいつも身長が伸びて、身長差が大きくなっていた。
 女子の方が成長が早く、日に日に女性らしくなっていくあいつ。
 そんなあいつに、どんどん惚れていく私。

 同じテーブルで勉強し始めた。
 今日は、宿題がたくさん出た。
 「今週って、テスト週間じゃろぉー。ぶち宿題多いけぇー、勉強進まんじゃろ。」
 「宿題だけはよ片付けて帰ろ。」
 「友野、宿題写させてぇよ。」
 「だめぇー。」
 あいつと答え合わせをしながら、宿題を片付けた。

 すると、悦ちゃんが近づいてきて、
 「もう図書館閉めるけぇーね。」
 そう言われて、片付け始めるあいつと私。
 「外暗いから、緒川君、友野さんをちゃんと送って帰ってね。」
 「えぇー!しゃーねぇーな。」
 あいつと一緒に帰る口実ができた私は、内心嬉しかった。

 

 暗くなった夕方、あいつとふたりで下校することになった。
 あいつとは、仲の良い友人と同じような会話をする。
 外見はどんどん女性らしくなっていくが、内面は小学生のときと変わらないあいつ。
 好きなテレビ番組や音楽、ゲームの話をするあいつと私。
 恋人同士という関係ではなく、仲の良い友達の関係だった。
 あいつを女性として意識し始める私。
 あいつは私をどう思っているのだろうか?
 あいつが私を男として見ている素振りは感じない。
 それでも、距離が縮まり、仲良くできるなら、それでも良いやと思った。


 

 国道2号線沿いの通学路。
 定食屋を右に曲がり、三菱病院の駐車場と保育園の間の小道を通るとショートカットできる。
 登り坂を過ぎれば、あいつのアパートの道に出る。
 アパート前まで送ると、
 「じゃぁ、明日ね。勉強しろよ。」
 「おぅ。友野には負けんけぇな」
 「勝負じゃね。緒川には負けんよ。」

 

 あいつを送り、ひとり自宅に向かって歩き出した。
 勉強は好きではない。
 それでも、あいつとの勝負に、やる気が出た。
 週末に迫った中間テスト。
 結果は如何に?
 それは次回で。

 

第9話はこちら↓

【小説】if ~もう少しだけアイツと一緒にいられたら~ 第9話
帰宅し、夕食を済ませた後、自分の部屋で勉強を始めた。ゲームをやりたい気持ちを抑えつつ、あいつより上の順位を獲ろうと、意気込んだ。普段はほとんど勉強しない私。あいつとの図書館での勉強を思い出し、あいつを意識しながら、ひとり勉強を進める。

 閲覧ありがとうございました。

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