核融合技術の基本原理とは?現在の開発状況と実用化する未来!
人類は常に新しいエネルギー源を求め続けてきました。
近年、地球温暖化や化石燃料の枯渇問題が深刻化する中で、AIや量子コンピュータには、膨大な電力が必要とされており、クリーンで持続可能なエネルギー源の開発が急務になっています。
そんな中、「地上に太陽を作る」とも表現される核融合エネルギーは、人類の未来を支える究極のエネルギー源として期待されています。
本記事では、核融合技術の基本原理から現在の開発状況、そして実用化に向けた未来の展望までを包括的に解説します。核融合エネルギーがどのようにして生み出され、現在どのような研究が進められているのか、そして私たちの社会にどのような影響をもたらす可能性があるのかを探っていきます。
参考:
「プラズマの不安定性を回避するために重要となるプラズマ内部の電流や圧力の分布まで、複数の制御量をリアルタイムに制御できる見通しが得られた」— QSTとNTTの共同研究成果より
ローレンス・リバモア国立研究所(Lawrence Livermore National Laboratory、LLNL)
「核融合の追求は非常に野心的な目標であり、長年にわたり数千人の科学者の貢献を必要とした」
— LLNLディレクター、キム・ブディル氏
核融合の基本原理
核融合とは何か
核融合とは、水素のような軽い原子核同士がくっついて(融合して)、ヘリウムなどのより重い原子核に変わる反応のことです。この過程で質量の一部がエネルギーに変換されます。
これは、アインシュタインの有名な質量とエネルギーの等価性を表す式である
E=mc²
に基づいています。
量子科学技術研究開発機構の説明によると、核融合は水素の仲間(同位体)である重水素(D)と三重水素(T)の原子核が融合するDT核融合反応では、ヘリウムと中性子ができます。
この反応は太陽の中心部でも起きており、太陽のエネルギー源となっています。
核融合反応の種類と特徴
核融合反応にはいくつかの種類があります。
最も研究が進んでいるのは、重水素(D)と三重水素(T)を用いたDT反応です。この反応は比較的低い温度(約1億度)で起こり、大きなエネルギーを放出するため、現在の核融合研究の主流となっています。
その他にも、重水素同士の反応(DD反応)や、重水素とヘリウム3の反応(DHe3反応)なども研究されています。これらの反応はDT反応よりも高い温度が必要ですが、放射性物質の生成が少ないなどの利点があります。
核融合のエネルギー生成メカニズム
核融合反応によって生成されるエネルギーは非常に大きなものです。
量子科学技術研究開発機構によると、たった1グラムのDT燃料の核融合反応から発生するエネルギーは、タンクローリー1台分の石油(約8トン)を燃やしたときと同じだけの熱に相当します。
核融合反応では、反応前の粒子の質量の合計よりも、反応後の粒子の質量の合計が小さくなります。この質量の差がエネルギーに変換されるのです。
DT反応では、重水素と三重水素が融合してヘリウムと中性子になる際に、約17.6MeVのエネルギーが放出されます。
プラズマと核融合の関係
核融合反応を起こすためには、燃料を超高温状態にする必要があります。超高温状態では、物質は通常の「固体、液体、気体」の状態ではなく、「プラズマ」と呼ばれる状態になります。
プラズマとは、原子核のまわりを廻っている電子が離れて、原子は正の電荷を持つイオンと負の電荷を持つ電子に分かれて(イオン化)、両者が高速で不規則に運動している状態です。核融合では、温度が数億度に及ぶ超高温プラズマが対象となります。
プラズマは雷やオーロラなど自然界に広く存在しますが、身近な例としては蛍光灯などの希薄な気体中の放電によって作られるプラズマがあります。
核融合反応を起こすための条件
核融合反応を起こすためには、いくつかの条件を満たす必要があります。
最も重要なのは、「ローソン条件」と呼ばれる基準です。これは、プラズマの密度、温度、閉じ込め時間の積(核融合三重積)が一定値以上になることを要求しています。
DT反応の場合、プラズマの温度を約1億度以上に加熱し、十分な密度で、十分な時間閉じ込める必要があります。
これらの条件を満たすために、様々な方式の核融合炉が研究されています。
現在の核融合技術開発状況
主要な核融合実験装置
現在、世界中で様々な核融合実験装置が稼働または建設中です。
- ITER(国際熱核融合実験炉):フランスのカダラッシュに建設中の国際プロジェクトで、日本、EU、米国、ロシア、中国、韓国、インドの7極が参加しています。当初は2025年にファーストプラズマを予定していましたが、最新の計画では2033年以降に延期されています。ITERは核融合の科学的・技術的実現可能性を実証することを目的としています。
2024年7月のベースラインで、DD運転は2035年、DT運転は2039年と発表。 - JT-60SA:日本の那珂核融合研究所に建設された超伝導トカマク装置で、日本とEUが共同で実施するプロジェクトです。ITERの技術目標達成のための支援研究や、原型炉に向けたITERの補完研究を目的としています。
- NIF(国立点火施設):米国のローレンス・リバモア国立研究所にあるレーザー核融合実験施設です。2022年には、レーザーで燃料に投入したエネルギーの約1.5倍(3.15MJ 出力 / 2.05MJ 入力)の核融合エネルギーを発生させる「科学的ブレークイーブン」を達成しました。
最新の核融合実験の成果
核融合研究は近年、大きな進展を見せています。
- NIFの科学的ブレークイーブン達成:2022年、米国のNIFは世界で初めて、投入エネルギーを上回る核融合エネルギーの生成に成功しました。これは核融合エネルギー開発における画期的な成果です。
- プラズマ性能の向上:MONOistの記事によると、核融合三重積(プラズマの性能を示す指標)は、1960年代から現在まで着実に向上しています。特にトカマク型の装置では大きな進展が見られます。
- AIの活用:2025年3月の報道によると、大型核融合装置のプラズマ閉じ込め磁場予測に高精度なAI技術が開発され、JT-60SAに適用されています。これにより、プラズマ位置形状の高精度な制御が可能になっています。
核融合技術の課題と解決策
核融合エネルギーの実用化に向けては、まだいくつかの技術的課題が残されています。
- プラズマの安定閉じ込め:超高温のプラズマを安定して閉じ込めることは非常に難しい課題です。これに対して、超伝導磁石の性能向上や、プラズマ制御技術の開発が進められています。
- 材料の耐久性:核融合炉内部の材料は、高温・高密度のプラズマや中性子照射に耐える必要があります。タングステンなどの高融点材料の開発や、特殊な合金の研究が進められています。
- トリチウム(三重水素)の確保:DT反応に必要なトリチウムは自然界にほとんど存在しないため、核融合炉内で生産する必要があります。リチウムを用いたブランケット技術の開発が進められています。
- 経済性の確保:核融合発電が実用化されるためには、他のエネルギー源と競争できるコスト水準を達成する必要があります。装置の小型化や効率向上の研究が進められています。
各国の核融合研究開発プロジェクト
核融合エネルギーの開発は世界各国で進められています。
- 欧州:EUはITERの主要参加国であるとともに、独自のDEMO(原型炉)計画を進めています。また、英国ではSPHERICAL TOKAMAKなどの研究も活発です。
- 米国:DOE(エネルギー省)が主導する公的研究に加え、コモンウェルス・フュージョン・システムズ(CFS)などの民間企業も活発に研究開発を行っています。CFSは2027年に燃焼実験を始める計画です。
- 中国:中国は「人工太陽」と呼ばれるEAST(実験先進超伝導トカマク)などの大型装置を用いた研究を進めており、独自の核融合発電所建設を目指しています。
- 日本:JT-60SAを中心とした研究に加え、量子科学技術研究開発機構(QST)が中心となって原型炉の設計研究を進めています。また、ヘリカル型装置LHDなどの研究も行われています。
民間企業の核融合開発への参入状況
近年、核融合エネルギー開発に参入する民間企業が急増しています。
- 核融合ベンチャーの増加:MONOistの記事によると、現在、核融合ベンチャーの数は45社に達しています。閉じ込め方式では磁場閉じ込めが約半数、慣性閉じ込めが2割を占めています。
- 多様な炉型の開発:公的プロジェクトで主流のトカマク型だけでなく、ヘリカル型、球状トカマク型、FRC型など、様々な炉型が民間企業によって開発されています。
- 日本の動向:2024年3月には、日本でも産官学連携の「核融合産業協議会(J-Fusion)」が発足し、三井物産、日揮ホールディングス、フジクラ、古河電気工業など約50の企業・団体が参加しています。
- マイクロソフトは、2028年に配備が予定されているHelion社初の核融合発電所から電力を購入することに合意したことを発表しています。
核融合発電の実用化する未来
核融合発電の実用化に向けたロードマップ
核融合発電の実用化に向けたロードマップは、各国・各機関によって若干異なりますが、一般的には下記のような段階が想定されています。
- 科学的実証段階:現在はこの段階にあり、ITERやNIFなどの実験装置によって核融合反応の科学的実証が進められています。
- 工学的実証段階:次の段階では、DEMO(原型炉)と呼ばれる実験炉によって、実際に電気を生産するための工学的実証が行われます。
- 商業炉開発段階:最終的には、経済性を備えた商業用核融合発電所の開発が目指されます。
マネックス証券の記事によると、現在のロードマップでは核融合発電の実用化への準備が完了するのは2050年頃と言われています。ただし、技術的ブレークスルーによってこの時間軸が短縮される可能性もあります。
デロイトのレポートによれば、2024年現在、世界における核融合の原型炉実現は2030年代と予測されており、2040年代には発電実証が進み、30~100万kWの電気を定常的につくることが可能になると言われています。
SPARC(CFS)
- 2026年:初プラズマ生成予定
- 2027年:ネットエネルギー(Q>1)達成目標
- 2030年代初頭:商用炉「ARC」運用開始予定
Helion Energy
年表
年度 | プロジェクト | 目標 |
---|---|---|
2026 | SPARC(CFS) | 初プラズマ生成 |
2027 | SPARC(CFS) | ネットエネルギー達成 |
2028 | Helion Energy | 商用発電所稼働 |
2035 | ITER | DD運転開始予定 |
2039 | ITER | DT運転開始予定 |
核融合発電の経済性と課題
核融合発電の経済性については、まだ不確定要素が多いものの、下記の特徴が期待されています。
- 燃料コストの低さ:核融合の燃料である重水素は海水から、三重水素はリチウムから生産可能であり、燃料コストは非常に低くなると予想されています。
- 初期投資の大きさ:核融合発電所の建設には巨額の初期投資が必要になると考えられています。この点が経済性の大きな課題となっています。
- 運転・保守コスト:放射化した機器の取り扱いや、超伝導磁石の冷却など、運転・保守にかかるコストも考慮する必要があります。
実用化に向けた課題としては、装置の小型化・簡素化によるコスト削減や、連続運転技術の確立などが挙げられます。
核融合エネルギーの社会的影響
核融合エネルギーが実用化された場合、社会に様々な影響をもたらすと考えられています。
- エネルギー安全保障の強化:燃料となる重水素は海水中に豊富に存在し、地球上に偏在することなく存在するため、エネルギー資源の地政学的リスクが大幅に低減されます。
- 環境への影響:核融合発電は二酸化炭素や窒素酸化物などを放出しないため、地球温暖化や酸性雨を引き起こしません。また、核分裂と異なり、メルトダウンのリスクもありません。
- 産業構造の変化:核融合技術の実用化は、エネルギー産業だけでなく、超伝導技術や材料科学など関連産業にも大きな影響を与える可能性があります。
国際協力の促進:ITERのような国際プロジェクトを通じて、国際協力の新たなモデルが構築される可能性があります。
核融合と他のエネルギー源との比較
核融合エネルギーは、他のエネルギー源と比較して下記のような特徴を持っています。
- 化石燃料との比較:化石燃料と異なり、CO2を排出せず、資源の枯渇の心配もありません。
- 原子力発電(核分裂)との比較:核分裂と異なり、連鎖反応が起こらないため本質的に安全であり、高レベル放射性廃棄物の問題も大幅に軽減されます。
- 再生可能エネルギーとの比較:太陽光や風力などの再生可能エネルギーと異なり、天候や時間帯に左右されず、安定した電力供給が可能です。また、大規模な土地利用も必要ありません。
Strategy&のレポートによれば、世界の再生可能エネルギーの増加ペースは、2050年までにエミッションフリーの発電環境を実現するには十分ではなく、核融合エネルギーが持続可能なエネルギー構造の鍵となる可能性があるとされています。
専門家による核融合実用化の予測
核融合エネルギーの実用化時期については、専門家によって様々な見解があります。
- 楽観的見解:一部の核融合ベンチャー企業は、2030年代前半にも小規模な核融合発電の実現を目指しています。米国のコモンウェルス・フュージョン・システムズは2025年までに実用的な核融合炉の稼働を目指しているという報道もあります。
- 中間的見解:多くの専門家は、2040年代に原型炉による発電実証が行われ、2050年代に商業炉が登場するというシナリオを想定しています。
- 慎重な見解:技術的課題の複雑さから、実用化はさらに先になるという見方もあります。特にITERの遅延などを考慮すると、商業化までの道のりはまだ長いという意見もあります。
マネックス証券の記事では、「核融合発電技術のあらましと、それが実社会に与えるインパクトについて解説し、まだまだ『お話』の域を越えるものではない」としつつも、「その可能性がわずかでも高まってくると株価は大きく反応する」と指摘しています。
核融合Q&A
Q1: 核融合と核分裂の違いは?
核融合は軽い原子核が結合してエネルギーを放出する反応で、太陽のエネルギー源です。一方、核分裂は重い原子核が分裂してエネルギーを放出します。核融合は放射性廃棄物が少なく、安全性が高いとされています。
Q2: 核融合発電の実用化は本当に2030年代?
複数のプロジェクトが2030年代の実用化を目指しています。例えば、Helion Energyは2028年の商用稼働を計画しており、CFSのSPARCは2027年にネットエネルギー達成を目指しています。
Q3: 核融合発電のメリットは?
無限に近い燃料供給、安全性の高さ、放射性廃棄物の少なさ、温室効果ガスの排出ゼロなどが挙げられます。
Q4: 核融合発電の課題は?
高温プラズマの制御、材料の耐久性、商用化に向けたコスト削減などが主要な課題です。
まとめ
核融合エネルギーは、水素の同位体である重水素と三重水素を融合させることで膨大なエネルギーを生み出す技術です。太陽のエネルギー源と同じ原理を地上で再現することで、クリーンで安全、そして事実上無尽蔵のエネルギー源を実現することを目指しています。
現在、ITERやJT-60SA、NIFなどの大型実験装置によって研究が進められており、特にNIFでは投入エネルギーを上回る核融合エネルギーの生成に成功するなど、大きな進展が見られています。また、近年は民間企業の参入も活発化しており、様々なアプローチで核融合エネルギーの実用化が目指されています。
実用化の時期については、現在のロードマップでは2050年頃とされていますが、技術的ブレークスルーによって前倒しされる可能性もあります。核融合エネルギーが実用化されれば、エネルギー安全保障の強化や環境問題の解決に大きく貢献することが期待されています。
核融合技術は、人類が直面するエネルギー問題と環境問題を同時に解決する可能性を秘めた「究極のエネルギー源」です。その実現に向けた研究開発は、国際協力と民間の創意工夫によって着実に進展しています。私たちの未来を支える新たなエネルギー源として、今後の発展が期待されます。
AIや量子コンピュータの普及による消費電力増と核融合技術の関係

核融合技術がAIの電力需要を担える可能性
-
大規模かつクリーンな電力供給:核融合発電が実用化されれば、理論上は燃料1グラムから石油8トン分に相当するエネルギーを生成できます。これはAIデータセンターのような電力集約型施設に必要な大量の電力を供給できる可能性を示しています。
-
安定した電力供給:核融合は天候や時間帯に左右されず、24時間365日安定した電力供給が可能です。これはAIシステムの継続的な運用に不可欠な要素です。
-
カーボンニュートラル:核融合発電はCO2を排出しないため、AIの電力消費による環境負荷を大幅に軽減できます。
核融合技術の現実的課題
-
実用化までの時間軸:現在のロードマップでは核融合発電の実用化は2050年頃と予測されており、それまでの間はAIの電力需要増加に対応するために他のエネルギー源(再生可能エネルギーや次世代原子力など)の組み合わせが必要です。
-
初期段階の供給能力:実用化初期の核融合発電所は数が限られ、世界中のAIインフラをすぐにカバーするには至らないでしょう。
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経済性の課題:核融合発電所の建設・運用コストが高い場合、AIの運用コスト増加につながる可能性があります。
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