スマホ新法、2025年12月全面施行へ!
Apple・Googleはどう変わる?
消費者・開発者への影響を徹底解説
私たちの生活に不可欠なスマートフォン。
その裏側で、アプリ市場を支配する巨大IT企業のルールが大きく変わろうとしています。
2025年12月18日に全面施行される、スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律、「スマホソフトウェア競争促進法(スマホ新法)」です。
この法律は、AppleやGoogleといった巨大プラットフォーマーによる市場の寡占状態にメスを入れ、公正で自由な競争環境を創出することを目的としています。これによって、私たちのスマホ利用体験や、アプリ開発者のビジネス環境はどのように変わるのでしょうか。
そこで本記事では、スマホ新法の概要から具体的な規制内容、国内外の動向比較まで、詳しく掘り下げて解説します。
スマホソフトウェア競争促進法(スマホ新法)とは?
法律の目的と背景
スマホ新法は、スマートフォンの利用に必要なソフトウェア市場において、公正で自由な競争を促進するための法律です。これまで、モバイルOSやアプリストア市場は、AppleとGoogleという2社による寡占状態が続き、下記のような課題が指摘されてきました。
- 高い手数料:アプリ内課金に対して15%~30%という高額な手数料が徴収され、開発者の収益を圧迫
- アプリストアの独占:iPhoneではApp Store以外からアプリをインストールできず(サイドローディングの禁止)、選択肢が限定
- 不透明なルール:アプリの審査基準やストアからの削除理由が不透明で、開発者が不利益を被るケース
- 自社サービスの優遇:プラットフォーマーが自社のサービスを検索結果などで優先的に表示
従来の独占禁止法では、変化の速いデジタル市場の問題に迅速に対応することが困難でした。
そこで、特定の事業者をあらかじめ指定し、禁止行為を具体的に定める「事前規制(ex-ante)」というアプローチが採用されたのが、このスマホ新法です。
違反行為をスピーディーに是正し、イノベーションの活性化と消費者の利益向上を目指します。
施行スケジュールと対象
段階的な施行スケジュール
スマホ新法は、2024年6月12日に成立し、段階的に施行されています。全体像を把握するために、主要な日程を確認しましょう。
- 2024年6月19日:法律の公布
- 2024年12月19日:規制対象となる「指定事業者」を指定するための規定が先行施行
- 2025年3月31日:公正取引委員会が初回の指定事業者を指定
- 2025年7月29日:公正取引委員会が運用ガイドラインを正式公表
- 2025年12月18日:法律の全面施行
全面施行日以降、指定事業者には法律で定められた禁止事項や遵守事項が実際に適用されることになります。
規制の対象となる企業とソフトウェア
スマホ新法の規制対象は、スマートフォンの利用に特に重要な「特定ソフトウェア」と、それを提供する「指定事業者」です。
特定ソフトウェア
下記の4分野が「特定ソフトウェア」として定められています。
- 基本動作ソフトウェア(OS)
- アプリストア
- ブラウザ
- 検索エンジン
※iPadなどのタブレット端末向けのOSは、現時点では対象外です。
指定事業者
公正取引委員会は、特定ソフトウェアを提供する事業者のうち、国内利用者数が4000万人以上など、一定規模以上の事業者を「指定事業者」として指定します。2025年3月に初回の指定事業者として下記の3社が指定されました。
| 指定事業者 | 対象となる特定ソフトウェア |
|---|---|
| Apple Inc. (および子会社のiTunes株式会社) |
OS:iOS アプリストア:App Store ブラウザ:Safari |
| Google LLC | OS:Android アプリストア:Google Playストア ブラウザ:Chrome 検索エンジン:Google Search |
Apple・Googleへの主な規制内容(禁止・遵守事項)
スマホ新法は、指定事業者に対して具体的な「禁止事項」と「遵守事項」を定めています。
違反した場合、売上高の原則20%(悪質な場合は30%)という非常に高額な課徴金が科される可能性があります。
ここでは、特に影響の大きい主要な規制内容を解説します。
主な禁止事項(法第5条~第9条)
| 禁止行為 | 内容 | 主な影響 |
|---|---|---|
| 代替アプリストアの提供妨害禁止 (法7条1号) |
自社以外の第三者アプリストアの提供や利用を妨げることを禁止。 | iPhoneでもApp Store以外のストアからアプリをインストール可能に(サイドローディング解禁)。Epic Games Storeなどが参入表明。 |
| 代替決済システムの利用妨害禁止 (法8条1号) |
自社以外の決済システム(外部課金)の利用を妨げることを禁止。 | 開発者はアプリストアの手数料(15~30%)を回避し、独自の決済手段を提供可能に。 |
| アプリ内での情報提供・誘導の制限禁止(アンチステアリング禁止) (法8条2号) |
アプリ内で、外部ウェブサイトでの購入がお得であることなどを案内したり、リンクを設置したりすることを禁止してはならない。 | 開発者はユーザーを自社サイトに誘導し、より安い価格でコンテンツを提供可能に。 |
| 代替ブラウザエンジンの利用妨害禁止 (法8条3号) |
自社以外のブラウザエンジン(ウェブページの表示処理を行う中核部分)の利用を妨げることを禁止。 | iOS上で、ChromeなどがAppleの「WebKit」以外の独自エンジン(例: Blink)を使用可能に。ブラウザの機能や性能の多様化が期待される。 |
| 検索結果での自社サービス優遇禁止 (法9条) |
正当な理由なく、検索結果で自社サービスを競合他社のサービスより優先的に表示することを禁止。 | Google検索などで、より中立的な検索結果が表示される可能性。 |
| 取得データの不当な使用禁止 (法5条) |
アプリ開発者から得た売上や利用状況などのデータを、自社の競合アプリ開発のために利用することを禁止。 | 開発者のデータがプラットフォーマーに不当に利用されるリスクが低減。 |
| OS機能の利用制限禁止 (法7条2号) |
自社が利用するOSの機能を、他社が同等の性能で利用することを妨げることを禁止。 | スマートウォッチなど周辺機器との連携機能などで、サードパーティ製品が純正品と同等の体験を提供しやすくなる。 |
一部の禁止行為には、「サイバーセキュリティの確保」「プライバシーの保護」「青少年の保護」などの目的のために必要不可欠で、他に代替手段がない場合に限り、例外的に行為が認められる「正当化事由」が設けられています。ただし、その判断は厳格に行われます。
主な遵守事項(法第10条~第13条)
- データポータビリティの確保(法11条):ユーザーが自身のデータを他のサービスへ容易に移行できる仕組みを整備すること。
- デフォルト設定の変更と選択画面の表示(法12条):ブラウザや検索エンジンなどのデフォルト設定をユーザーが簡単に変更できるようにし、初期設定時などに選択画面(チョイススクリーン)を表示すること。
- 情報開示義務(法10条、13条):取得するデータの種類や管理体制、OSの仕様変更などについて、開発者に対して透明性を確保し、十分な情報を提供すること。
消費者や事業者への影響は?
スマホ新法の施行は、スマホライフやアプリビジネスに光と影の両面があります。
消費者(ユーザー)への影響
- 【メリット】
-
- 選択肢の拡大:App Store以外のアプリストアが登場し、これまで配信されていなかった多様なアプリを利用できる機会が増えます。
- 価格低下の可能性:開発者の手数料負担が減ることで、アプリ内課金やサブスクリプションの価格が下がる可能性があります。
- 利便性の向上:ブラウザや検索エンジンを自由に選び、デフォルト設定にしやすくなります。
- 【デメリット・懸念点】
-
- セキュリティ・プライバシーリスクの増大:Appleの厳格な審査を経ないアプリストアから、マルウェアや詐欺アプリが流入するリスクが高まります。ユーザー自身がアプリの安全性を判断する必要性が増します。
- ユーザー体験の断片化:決済方法やサポート体制がアプリごとに異なり、混乱を招く可能性があります。
- 一部機能の制限:EUの事例では、規制への対応として一部の便利な連携機能が制限されるケースもありました。日本でも同様の事態が起こる可能性は否定できません。
アプリ開発者(事業者)への影響
- 【メリット】
-
- 手数料負担の軽減:最大のメリットは、アプリストアに支払う15~30%の手数料を回避できる可能性があることです。外部決済の導入により、収益性が大幅に改善されることが期待されます。
- ビジネスモデルの自由度向上:独自のアプリストアを開設したり、ユーザーと直接的な関係を築いたり(CRM)、自由な価格設定を行ったりと、ビジネスの選択肢が大きく広がります。
- イノベーションの促進:これまでストアの規約で実現できなかった新しいタイプのアプリやサービスが登場し、市場全体の活性化につながる可能性があります。
- 【デメリット・課題】
-
- 開発・運用コストの増大:複数のアプリストアへの対応や、独自の決済・セキュリティシステムの構築・維持には追加のコストと手間がかかります。
- ユーザー獲得の複雑化:アプリストアの集客力に頼れなくなるため、自社でのマーケティング活動がより重要になります。
- セキュリティ責任の増大:外部決済などを導入する場合、不正利用や情報漏洩対策など、セキュリティに関する責任を自社で負うことになります。
日本・EU・米国のデジタル規制比較
日本のスマホ新法は、世界的な巨大IT企業への規制強化の流れの中に位置づけられます。
特に先行するEUの「デジタル市場法(DMA)」とは多くの共通点と相違点があります。
一方、米国は異なるアプローチを取っています。
| 項目 | 日本(スマホ新法) | EU(デジタル市場法:DMA) | 米国 |
|---|---|---|---|
| 規制 | 事前規制(Ex-ante) | 事前規制(Ex-ante) | 事後規制(Ex-post)が中心。司法による独禁法訴訟が主 |
| 対象 | スマホ関連の4分野に特化(OS、アプリストア、ブラウザ、検索)Apple、Googleが中心 | 10の中核プラットフォームサービス(SNS、クラウド等も含む)と広範。Amazon、Meta、 Microsoft等も対象 | 個別事案ごとに提訴。Apple、Google、Metaなどが対象 |
| 規制内容 | サイドローディング、外部決済、アンチステアリング禁止など、DMAと類似の規定が多い。 | 日本のスマホ新法が参考にしたモデル。メッセージアプリの相互運用性など、より広範な義務を含む。 | 連邦レベルでの包括的な事前規制法はなし。州レベルの法律(例:アプリストアの年齢確認)が散見される。 |
| 制裁 | 違反行為に関わる売上高の20%(悪質な場合30%) | 全世界の年間総売上高の10%(悪質な場合20%) | 訴訟内容により様々。司法判断に基づく是正措置が中心。 |
| 特徴 | DMAの運用実績を参考に、 loopholes(抜け穴)を塞ぐためのより具体的で厳格な規定(例:「機能的に同等なアクセス」の要求)が特徴。「ミニDMA」とも呼ばれるが、より精密な設計。 | 世界に先駆けて包括的な事前規制を導入し、「ブリュッセル効果」として各国の規制に影響を与えている。 | 政府による事前介入には慎重で、イノベーションを阻害するとの意見も根強い。司法を通じた競争回復を目指す。 |
日本のスマホ新法は、EUのDMAをモデルにしつつも、その適用範囲をスマートフォン市場に絞り、EUでのAppleの対応策などに見られた抜け道を塞ぐよう、より詳細な規定を盛り込んでいる点が特徴です。
このため、単に模倣するのではなく、日本の市場環境に合わせて最適化された「日本版DMA」と言えるでしょう。
また、公正取引委員会は欧州委員会と協力協定を結んでおり、国際的な連携を強化して規制の実効性を高める姿勢を示しています。
スマホエコシステムの新たな幕開け
2025年12月18日に全面施行される「スマホソフトウェア競争促進法」は、日本のデジタル市場における歴史的な転換点となります。
この法律は、長く続いたAppleとGoogleによる寡占的な市場構造に風穴を開け、アプリ開発者にはビジネスの自由度を、消費者にはより多くの選択肢と利益をもたらす可能性を秘めています。
もちろん、セキュリティリスクの増大やユーザー体験の複雑化といった課題も存在します。法律の真価は、公正取引委員会による厳格かつ柔軟な運用と、指定事業者であるAppleとGoogleがどのように対応するかにかかっています。
私たちユーザーも、この変化を正しく理解し、新たなリスクに注意を払いながら、より豊かになるスマホエコシステムの恩恵を享受していく必要があります。
閲覧ありがとうございました。
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