【わかりやすい日本神話】
知られざる神々の物語と日本人の精神
私たちは毎日、神社の前を通り過ぎ、初詣に出かけ、「八百万の神」という言葉を何気なく使っています。でも、その背景にある物語を本当に理解している人は、意外と少ないのではないでしょうか。
日本神話は、単なる昔話ではありません。1300年以上前から語り継がれてきた、日本人のアイデンティティそのものなんです。
そこで本記事では、初心者の方でも楽しめるように、日本神話の世界を詳しく、そして分かりやすく紐解いていきます。

日本神話を記した二つの書物

『古事記』と『日本書紀』の違い
日本神話は主に二つの文献に記されています。
『古事記』(712年成立)
- 日本最古の歴史書
- 太安万侶(おおのやすまろ)が編纂
- 和文と漢字を織り交ぜた独特の文体
- より物語性が強く、神話的要素が豊富
- 天皇家に伝わる口承をベース
『日本書紀』(720年成立)
- 全30巻からなる壮大な編年体の歴史書
- 舎人親王(とねりしんのう)らが編纂
- 漢文で書かれた正式な「国史」
- 中国の歴史書を意識した「対外的」な書
- 複数の異説を併記する学術的スタイル
『古事記』は国内向けに日本のルーツを語り、
『日本書紀』は国際社会(特に中国)に対して「日本も立派な歴史を持つ国だ」と示すために作られました。
どちらが正しいかではなく、二つの視点から日本の始まりを描いた貴重な記録です。
天地開闢 – 宇宙の始まりと最初の神々

混沌から秩序へ
物語は、まだ何もない混沌とした状態から始まります。
天と地が分かれていない、形のない世界。
やがて、軽く清らかなものが上昇して「天(高天原;たかまがはら)」となり、重く濁ったものが沈んで「地」となりました。
このとき、高天原に最初に現れたのが、天之御中主神(アメノミナカヌシ)です。
この神は宇宙の中心を司る根源的な存在とされ、「妙見(みょうけん)さま」とも呼ばれます。
北極星や北斗七星がその象徴です。
造化三神 | 創造の力を持つ三柱
アメノミナカヌシに続いて、
が現れ、この三柱を「造化三神(ぞうかさんしん)」と呼び、万物を生み出す根源的な力を象徴しています。
興味深いのは、これらの神々は姿を現すとすぐに「独神(ひとりがみ)」として身を隠してしまうこと。つまり、具体的な姿を持たない、概念的な存在です。これは日本神話の特徴で、最高神でさえも絶対的な支配者ではなく、自然と一体化した存在として描かれています。
神世七代 | 男女神の登場
その後、次々と神が生まれ、ついに男女のペアの神々が現れます。
これを「神世七代(かみよななよ)」と呼びます。
そして最後に登場するのが、日本創造の主役となる
です。
国生み神話 | 日本列島誕生の物語

天沼矛で海をかき混ぜる
高天原の神々は、イザナギとイザナミに「この漂える国を修め固めよ」と命じ、天沼矛(あめのぬぼこ)という聖なる矛を授けます。
二柱の神は天の浮橋に立ち、矛で下界の海をかき回しました。すると、矛を引き上げたとき、先端から滴り落ちた塩の雫が固まって、最初の島「淤能碁呂島(おのごろじま)」が生まれたのです。
この島に降り立った二人は、そこで結婚の儀式を行います。しかし最初は女神のイザナミから声をかけたため、不完全な子(ヒルコ)が生まれてしまいました。改めて男神から声をかけ直すと、今度は立派な島々が誕生したのです。
大八島国の誕生
こうして生まれたのが下記の8つの島々です。
- 淡路島:最初に生まれた特別な島
- 四国(伊予之二名島):顔が4つある島として表現
- 隠岐島
- 九州(筑紫島)
- 壱岐島
- 対馬
- 佐渡島
- 本州(大倭豊秋津島)
これらを「大八島国(おおやしまぐに)」と呼び、日本の国土の基礎となりました。その後も、
- 吉備児島
- 小豆島
- 大島
- 女島
- 知訶島
- 両児島
なども生まれ、日本列島が完成していきます。
現代の地理学的には説明できない順序ですが、当時の人々の世界観や、各地域の重要度が反映された興味深い順番になっています。
神生み | 自然神の誕生と悲劇

森羅万象を司る神々
国土を生み終えた二柱は、次に様々な神々を生み出していきます。
- 大事忍男神(オオコトオシヲノカミ):家屋の神
- 石土毘古神(イワツチビコノカミ):岩石の神
- 大戸日別神(オオトヒワケノカミ):門の神
- 天之吹男神(アメノフキヲノカミ):風の神
- 大屋毘古神(オオヤビコノカミ):屋根の神
- 大綿津見神(オオワタツミノカミ):海の神
- 速秋津日子神・速秋津比売神:河口・水門の神
- 山の神
- 野の神
- 川の神
- 木の神
など、自然界のあらゆる要素に神が宿るという、日本特有の自然観がここに表れています。
これが「八百万の神」という考え方の原点なんです。
イザナミの死 | 火の神カグツチ
最後に火の神「迦具土神(カグツチノカミ)」を産んだとき、イザナミは大やけどを負ってしまいます。苦しみながらも、彼女の嘔吐物、糞、尿からさらに神々が生まれました。
そして、イザナミは亡くなってしまいます。妻の死を嘆き悲しんだイザナギは、怒りのあまり火の神カグツチを剣で斬り殺してしまいました。このとき、カグツチの血や身体から、さらに多くの神々(特に刀剣や山の神々)が誕生したのです。
ここに日本神話の重要な特徴があります。神々は完璧な存在ではなく、喜び、悲しみ、怒る。そして死さえも迎える。非常に人間的な存在として描かれているのです。
黄泉の国訪問 | 生と死の境界

妻を追って死者の国へ
愛する妻を失ったイザナギは、諦めきれずに死者の世界「黄泉国(よみのくに)」まで追いかけていきます。
黄泉の国の入口でイザナミと再会したイザナギは、「一緒に帰ろう」と懇願します。しかしイザナミは言いました。
「私はもう黄泉の国の食べ物を食べてしまいました。でも、黄泉の国の神々に相談してみます。その間、決して私を見てはいけません」
禁忌を破った代償
しかし待ちきれなくなったイザナギは、髪飾りに火を灯して暗闇を照らしてしまいます。そこで見たものは、腐敗して蛆がたかり、八柱の雷神が纏わりついた、変わり果てた妻の姿でした。
「私に恥をかかせた!」
怒ったイザナミは黄泉醜女(よもつしこめ)という鬼女たちを差し向けます。イザナギは必死で逃げ、桃の実を投げつけて追っ手を撃退し、最後には巨大な岩で黄泉の国の出口を塞ぎました。
岩を挟んで、二人は決別の言葉を交わします。
イザナミ:「あなたの国の人々を、1日に1000人殺してやる」
イザナギ:「それなら私は、1日に1500人生まれる産屋を建てよう」
この対話は、人間の生と死のサイクルを象徴的に表現しています。「死は避けられないが、それを上回る生命力で人類は続いていく」という宣言です。
禊と三貴子の誕生

穢れを清める禊
黄泉の国から戻ったイザナギは、死の穢れを洗い流すため、日向国(ひゅうがのくに:現在の宮崎県)の阿波岐原で禊(みそぎ)をします。
この禊の場面で、脱ぎ捨てた衣服や持ち物からも次々と神が生まれます。そして川に入って身体を洗うと、さらに多くの神々が誕生しました。
最も貴い三柱の神
最後に顔を洗ったとき、三柱の偉大な神が生まれます。
左目を洗うと → 天照大御神(アマテラスオオミカミ)
- 太陽を司る女神
- 高天原(天上界)を治める最高神
- 天皇家の祖先神
- 伊勢神宮に祀られる
右目を洗うと → 月読命(ツクヨミノミコト)
- 月を司る神
- 夜の世界を治める
- 謎が多く、神話での活躍は少ない
鼻を洗うと → 須佐之男命(スサノオノミコト)
- 嵐や海を司る神
- 出雲神話の中心人物
- 荒々しいが、英雄的な側面も持つ
この三柱を「三貴子(さんきし)」または「三柱の貴い子」と呼びます。イザナギは大いに喜び、それぞれに領域を与えました。
天岩戸神話 | 世界を闇に包んだ事件

スサノオの乱暴と姉の怒り
スサノオは母イザナミのいる黄泉の国に行きたいと泣き叫び、高天原で大暴れします。田んぼを壊し、神聖な機織り小屋に皮を剥いだ馬を投げ込むなど、やりたい放題。
姉のアマテラスは最初、弟をかばっていましたが、ついに我慢の限界に達します。
天岩戸(あまのいわと)という洞窟に引きこもってしまったのです。
世界が闇に包まれる
太陽神が隠れたため、世界は真っ暗闇になってしまいました。作物は育たず、悪神たちが跋扈する大混乱。これは大変だと、八百万の神々が集まって対策会議を開きます。
そこで考え出されたのが、祭りを開いて、アマテラスの好奇心を刺激する作戦でした。
天宇受売命の舞と岩戸開き
神々は岩戸の前で盛大な宴会を始めます。特に天宇受売命(アメノウズメノミコト)という女神が、胸もあらわに激しく踊ると、神々は大爆笑。
「なぜ、私が隠れて世界が暗くなっているのに、みんな楽しそうなの?」
不思議に思ったアマテラスが少し岩戸を開けると、天手力男神(アメノタヂカラヲノカミ)という力持ちの神が岩戸を引き開け、アマテラスを外に連れ出しました。
こうして世界に再び光が戻り、スサノオは高天原から追放されることになります。
この神話は、冬至(太陽の力が最も弱まる時期)と、その後の太陽の復活を象徴していると考えられています。また、神楽や歌舞伎などの日本の芸能の起源説話でもあります。
スサノオの出雲神話

八岐大蛇退治
高天原を追放されたスサノオは、出雲国(現在の島根県)に降り立ちます。そこで、老夫婦が泣いているのに出会いました。
理由を聞くと、8つの頭と8つの尾を持つ巨大な怪物「八岐大蛇(ヤマタノオロチ)」が毎年やって来て、娘たちを食べてしまう。今年は最後の娘、櫛名田比売(クシナダヒメ)の番だというのです。
スサノオは娘との結婚を条件に、大蛇退治を引き受けます。
英雄への転身
スサノオの作戦は見事でした。8つの門に8つの酒樽を用意し、大蛇を酔わせてから斬りつけたのです。大蛇の尾を切ったとき、中から立派な剣が現れました。これが草薙剣(くさなぎのつるぎ)、後の三種の神器の一つです。
この剣をアマテラスに献上し、スサノオはクシナダヒメと結婚して出雲に宮殿を建てました。荒々しかった神が、英雄として生まれ変わった瞬間です。
スサノオの子孫が、出雲を治める大国主命(オオクニヌシノミコト)です。スサノオは国造りの神、縁結びの神として、出雲大社に祀られています。
国譲り | 地上世界の支配権をめぐる物語

大国主の国造り
スサノオの子孫である大国主命は、少名毘古那神(スクナビコナノカミ)という小さな神と協力して、地上世界(葦原中国:あしはらのなかつくに)を立派な国に育て上げました。
しかし高天原のアマテラスは、「地上世界は私の子孫が治めるべきだ」と考えます。
天孫降臨への準備
アマテラスは何度も使者を送りますが、大国主はなかなか首を縦に振りません。最終的に、建御雷神(タケミカヅチノカミ)という武神が降り、話し合いの末、大国主は国を譲ることに同意します。
条件は一つ、立派な宮殿(出雲大社)を建てて、私たちを祀ること。
こうして、地上世界を治める権利は、高天原の神々の手に渡りました。
天孫降臨
アマテラスの孫である瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)が、三種の神器を携えて地上に降り立ちます。これが天孫降臨(てんそんこうりん)です。
降臨の地は、日向国の高千穂峰(宮崎県・鹿児島県の境)とされています。ニニギは木花咲耶姫(コノハナサクヤビメ)という美しい女神と結婚し、その子孫から初代天皇である神武天皇が誕生します。
日本神話が教えてくれること


自然への畏敬
日本神話の大きな特徴は、自然のあらゆるものに神が宿るという考え方です。山、川、海、風、木、岩など、すべてに神性がある。
これは「八百万の神」という概念に繋がり、日本人の自然観の根底を成しています。自然を征服するのではなく、共生し、畏れ敬う。この精神は、現代の環境意識にも通じるものがあります。
不完全性の美学
日本神話の神々は、完璧ではありません。
失敗し、嫉妬し、怒り、泣く。時には死さえ迎えます。
この不完全性こそが、神々を身近な存在にしているのです。西洋の全知全能の神とは対照的に、日本の神々は人間と同じ感情を持つ、親しみやすい存在として描かれています。
生と死の循環
イザナギとイザナミの物語は、生と死は表裏一体であることを教えてくれます。死は終わりではなく、循環の一部。この世とあの世は繋がっている。
禊(みそぎ)や祓(はらえ)の文化も、ここから生まれました。穢れは洗い流せる、再生できるという前向きな死生観です。
多様性の受容
日本神話には無数の神々が登場し、それぞれが個性的です。
一神教のような唯一絶対の存在ではなく、多様な神々が共存する世界。
これは日本文化の寛容性や、異なる価値観を受け入れる柔軟性の源泉かもしれません。
日本神話が現代に生きる場所

全国の神社
日本全国に約8万社ある神社の多くに、神話の神々が祀られています。
- 伊勢神宮(三重県):アマテラス
- 出雲大社(島根県):オオクニヌシ
- 伊弉諾神宮(兵庫県):イザナギ
- 霧島神宮(鹿児島県):ニニギ
- 八坂神社(京都府):スサノオ
神社参拝は、単なる観光地ではなく、1300年以上続く物語との対話なのです。
地名や文化に残る神話
日本各地の地名にも、神話の痕跡が残っています:
- 淡路島:最初に生まれた島
- 出雲:スサノオとオオクニヌシの舞台
- 高千穂:天孫降臨の地
- 黄泉比良坂:黄泉の国への入口(島根県)
相撲、神楽、祭りなど、日本の伝統文化の多くも神話に起源を持っています。
現代のポップカルチャーへの影響
日本神話は、現代のアニメ、ゲーム、漫画にも大きな影響を与えています。
- 「NARUTO」のイザナギ・イザナミ
- 「モンスターストライク」の神々
- 「ペルソナ」シリーズ
など、枚挙にいとまがありません。
古い物語が、常に新しい形で蘇り続けているのです。
おわりに | あなたも日本神話の世界へ

日本神話は、単なる昔ばなしではありません。
私たちの日常に、文化に、精神性に、今も息づいています。
神社を訪れたとき、美しい自然を見たとき、季節の移ろいを感じたとき。
そこには常に、神話の世界が広がっています。
本記事で紹介したのは、日本神話の入り口に過ぎません。
この先には、もっと多くの神々の物語、各地の風土記、様々な解釈が待っています。
ぜひ、あなた自身の目で、日本神話の世界を探検してみてください。
きっと、日本という国の見え方が、少し変わるはずです。
もっと深く学びたい方へ
訪れてみたい場所
日本神話は、読めば読むほど、知れば知るほど面白くなる、奥深い世界です。
1300年の時を超えて語り継がれてきた、日本人の心の物語。
それは今も、私たちの中に生き続けています。
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