「残業キャンセル界隈」と「静かな退職」
新しい働き方の本音
最近SNSやニュースで「残業キャンセル界隈」「静かな退職」という言葉をよく見かけます。
2025年、この2つのキーワードが若者を中心に大きな話題になっているようです。
20年間、企業で機械エンジニアとして働き、うつ病を患った私は、
「こういう時代が来たんだな」
と思わずにはいられないんです。
そこで本記事では、「残業キャンセル界隈」「静かな退職」という現象について、データと実例を交えながら掘り下げていきます。
参考:日経ビジネス ITmedia マイナビ Fair Clinic
「残業キャンセル界隈」とは?定時で帰る若者たち

SNS発祥の新しい働き方
「残業キャンセル界隈」とは、仕事が残っていても定時になったら迷わず帰宅する人たちを指すSNS発祥の言葉です。
- 風呂キャンセル界隈(疲れて風呂に入らない人たち)
- 外出キャンセル界隈(できるだけ外に出たくない人たち)
など、SNS上で使われていた「○○キャンセル界隈」という表現。
日常生活の義務感を軽やかに放棄する言葉遊びから始まったこの文化が、職場に広がったんです。
実際にこんなことが起きている
ある製造業での実例を見てみましょう。
上司:「今日中に、この仕事を完了させてくれ」
若手社員:「分かりました。すぐやります」
しかし午後5時30分、定時になると...
若手社員:(荷物をまとめて)「私、残業キャンセル界隈の人なんで」
上司:「おい。まだ仕事はできていないだろ?」
上司は言葉を失います。
「残業キャンセル、界隈・・・」
冗談のような話でありながら、本音を含んでいます。
定時以降は自分の時間、残業はしないという強い意思表示です。
なぜこんなことが起きているのか
法律的に見ると、残業命令にはかなり高いハードルがあります。
労働基準法では1日8時間、週40時間が法定労働時間。
これを超えて働かせるには、
- 36協定の締結と届出が必要
- 就業規則に残業規定が必要
- 雇用契約に残業条項が必要
なんです。
これらが揃っていない場合の残業命令は実は違法で、「残業キャンセル」は当然の権利です。
ただし、「仕事を終わらせずに帰ること」には賛否両論があります。
「静かな退職」とは?やりがいを求めない新しい働き方

Quiet Quitting | アメリカから広がった現象
「静かな退職(Quiet Quitting)」は、
「会社を辞めるわけではなく、やりがいやキャリアアップは求めず、決められた仕事を淡々とこなす働き方」
のことです。
2022年、TikTokでアメリカのキャリアコーチが提唱し、世界的なトレンドになりました。
無理に成果を追わず、会社に期待も抱かない。
「会社との距離感をとる行動」です。
正社員の4割以上が「静かな退職」
静かな退職に関する調査によると、
- 正社員の44.5%が「静かな退職」をしている
- 20代が最多で46.7%
- 50代も45.6%、40代も44.3%
「静かな退職」は、若者だけの現象ではなく、全世代に広がっています。
私が会社で見た光景は、若者よりも定年を待つ働かないおじさんの姿でした。
「静かな退職」で得られたもの
「静かな退職」をしている人の57.4%が「得られたものがある」と回答しています。
- 休日や労働時間、自分の時間への満足感(23.0%)
- 仕事量に対する給与額への満足感(13.3%)
そして、70.4%が「今後も静かな退職を続けたい」と回答しています。
4つのタイプに分かれる「静かな退職」のきっかけ

| 不一致タイプ | 仕事・環境が自分に合わず、意欲が低下 職場にやりがいを感じない |
| 評価不満タイプ | 処遇・評価に対する不満 頑張っても評価されない |
| 損得重視タイプ | コストパフォーマンス重視 給与に見合った仕事量 |
| 無関心タイプ | 変化・上昇を求めない キャリアアップに興味がない |
注目すべきは、不本意ながら「静かな退職」を選んでいる人がいるということです。

「残業キャンセル界隈」と「静かな退職」の相互関係を読み解く
この2つの現象は、密接に関連しています。
共通点 | 従来の働き方への拒否反応
2つの現象の共通点は、従来の日本的な働き方への反発という点です。
- 自己犠牲を伴う働き方への強い拒絶感
- 仕事中心の人生から距離をとりたいという意識
- ワークライフバランス重視の姿勢
「給与や昇給のために」から「自分の人生を大切にする」への価値観の転換が進んでいます。
決定的な違い | 内向きか外向きか

共通点がある一方で、重要な違いがあります。
| 「静かな退職」 内面的な諦めや境界線 |
最低限の業務だけを行う 仕事そのものへの関与を最小限にする 心理的には会社との距離感をとる行動 静かに、目立たずに行う |
| 「残業キャンセル界隈」 外向きの動き |
SNS上で仲間を見つける 今日も残業キャンセル成功!とシェアして楽しむ 勤務時間内の仕事は必ずしも消極的ではない 仲間意識を強調する |
「静かな退職」が内向きで受動的なのに対し、「残業キャンセル界隈」は外向きで能動的です。
因果関係 | 「静かな退職」が「残業キャンセル」を生む

専門家によると、2つの現象には因果関係もあります。
「静かな退職」の状態が続く場合、
- スキルの停滞が起こる
- エンゲージメントの低下が進む
- さらに仕事への意欲が下がる
- 「残業キャンセル」という具体的な行動につながる
「静かな退職」という心理状態が、「残業キャンセル」という目に見える行動として現れるケースも多いです。
進化の過程 | 段階的な変化
この2つの現象を時系列で見ると、興味深いことがわかります。
| 2022年 | 「静かな退職」 アメリカから日本へ |
TikTokで概念が拡散 内面的な働き方の変化として広がる |
| 2024年 | 「残業キャンセル界隈」が急拡大 | SNSの「○○キャンセル界隈」文化と融合 より具体的で実践的な行動として可視化 |
「静かな退職」という概念が、日本のSNS文化と結びついて「残業キャンセル界隈」という行動に進化したと見ることもできます。
企業への影響 | 2つの現象が重なるとき

両現象が職場で同時に起きると、企業にとっては深刻な問題になります。
| チームワークの崩壊 | 「静かな退職」で最低限しか働かない 「残業キャンセル」で定時に帰る 残った仕事は他のメンバーに押し付けられる |
| スキル向上の機会損失 | 難しい仕事を避ける 残業で学ぶ機会を逃す 長期的なキャリア形成に悪影響 |
| 信頼関係の破綻 | 「頼りにならない人」という評価 重要な仕事を任されなくなる 組織内での孤立 |
企業はどう見ている? | 賛否両論という現実

約4割が「静かな退職」に賛成
企業の中途採用担当者への調査では、
- 賛成:38.9%
- 反対:32.1%
と意外にも、賛成が反対を上回っています。
| 賛成意見 | 人それぞれだと思うので、キャリアアップを求めない働き方も考慮すべき そういった人材がいないとなりたたない業務もある |
| 反対意見 | 他の従業員に伝播する 会社として有益ではない |
IT・通信業界は賛成派が多く、不動産・建設業界は反対派が多い傾向があります。
実は悪くない? | ポジティブに捉える視点
「残業キャンセル」も「静かな退職」も悪いことばかりではないかもしれません。
ポジティブに捉える余地もあります。
問題の本質は「残業しないこと」ではない

問題は、「残業をしないこと」ではなく、「仕事を完遂せずに残業を拒否すること」です。
業務を効率よく進め、定時内に成果を出せるなら、残業キャンセルはむしろ健全なことです。
効率化のきっかけになる可能性

「残業キャンセル界隈」は、効率的な働き方を実現するきっかけになり得る点があります。
- 業務の優先順位を明確化する必要が出る
- 無駄な作業を削減する動機になる
- 成果主義の評価制度導入のチャンスになる
「残業キャンセル界隈」を肯定した企業の中には、
残業ゼロを実現して離職率が改善したケース
もあるそうです。
私が思うこと | 働き方改革の光と影
20年間、機械エンジニアとして働いた私は、残業が当たり前の時代を生きてきました。
「仕事は終わらせてから帰るもの」という価値観が染み付いていました。
そんな私も、うつ病を患ってから考えが変わりました。
無理をして働き続けることの代償は、あまりにも大きい。
「残業キャンセル界隈」や「静かな退職」には、確かに賛否があります。
「責任感がない」という批判も理解できます。
「なぜそういう働き方を選ばざるを得ないのか?」
そこに目を向ける必要があります。
働く環境や評価制度に問題があって、やむを得ず「静かな退職」や「残業キャンセル」を選んでいる人が多いということです。
上司・管理職はどう向き合うべきか

「残業キャンセル界隈」や「静かな退職」に直面したとき、どう対応すべきでしょうか。
頭ごなしに否定しない
背景には、
- 長時間労働への疲れ
- 成果主義に対する諦め
- 評価への不満
があるかもしれません。
若者を責めるのではなく、職場の構造的な課題に目を向ける必要があります。
成果主義の原点に立ち返る
残業時間ではなく、成果の質と量で評価する仕組みが整えば、残業を避ける社員に対しても公正な評価につながります。
効率的に働くノウハウを教える
若手社員は経験が少ないため、時間内で成果を出すノウハウが少ない。
- 業務整理の仕方
- 優先順位の付け方
- タスク管理の方法
を教えることが、若手育成になります。
もしこれを怠れば、上司の「部下育成キャンセル界隈」と揶揄されるでしょう。
綿密な認識合わせ
- 目的の明確化
- 優先順位の確認
- 定時までにできる範囲の共有
- 成果物の水準を合意
双方の納得感を得るカギになります。
これからの働き方 | 多様性を認める時代へ

高市首相が2025年10月に「ワークライフバランスという言葉を捨てる」と発言し、大きな議論を呼びました。しかし、時代の流れはもう逆戻りできないところまで来ています。
重要なのは、二者択一ではないことだと思います。
- バリバリ働いてキャリアアップしたい人
- ワークライフバランスを重視したい人
- 最低限の仕事だけして私生活を充実させたい人
どの働き方も、その人の選択として尊重されるべきです。
企業側も、多様な働き方を受け入れる柔軟性が求められています。
不本意な「静かな退職」を生まないような環境作りを目指すことが重要です。
新しい働き方の本質を見極める
「残業キャンセル界隈」と「静かな退職」は、若者のわがままではありません。
この2つの現象は、
- 「静かな退職」という内面的な変化
- 「残業キャンセル」という外向きの行動
という形で、従来の日本的働き方への反発を表しています。
そして、両者は独立した現象ではなく、相互に関連し、影響し合っています。
その背景には、
- 働き方改革の浸透
- ワークライフバランス重視の価値観
- 不適切な評価制度への不満
- コロナ禍による働き方の見直し
- SNS文化の影響
といった、時代の大きな変化があります。
大切なのは、互いの働き方を理解し、尊重すること。
企業は、効率的に成果を出す方法を模索し、不本意な「静かな退職」を生まないような環境作りを目指すこと。
今後の働き方は、どんどん変化していくでしょう。
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